雑穀「きび」のふる里はどこだろう?

「きび」は最も古い穀物の一つですが、野生種が発見されておらず、原産地も諸説ありインド西北部から中央アジアや中国、エジプトやギリシャなどでも栽培されていたそうです。
また、紀元前8000年〜4000年の石器時代にはヨーロッパに伝来していたとも言われています。「きび」は古代中国では「黄米」といって最高級の主食だったそうです。日本には華北から朝鮮を経て伝わったとされていますが「古事記」や「日本書紀」にはきびについての記載がなく、「倭名類聚鈔(わみょうるいじゅうしょう)」(931〜936)の「和黍」の文字が最初です。米、麦、アワ、ヒエよりも遅れて伝来したと考えられています。「吉備の国」と呼ばれた現在の岡山県あたりは、その名が称するように古来はきびの産地だったようで、おとぎ話「桃太郎」に出てくるように“鬼の征伐についてくるならあげましょう、きび団子”というほどです。昔は兵糧食としても使われていたようです。くまさん自然農園でも農薬不使用できびを作っていますよ!

雑穀は「命の根源」食です

健康食品として注目を集める雑穀たちですが、昔は畑に実る五穀をどれも「イネ」と呼んでいました。古代語で 「イ」は“いのち”の 「イ」、「ネ」は“根っこ”の「ネ」で、二つの言葉をつなげて「イネ」と呼び「命の根源」を意味していたのです。
くまさん自然農園の伝統的な雑穀たちは農薬を使わなくても育ち、豊富なビタミンB群やミネラル、食物繊維に恵まれ私たちに必要な必須栄養素を満たしてくれます。雑穀たちには動脈硬化を予防、軽減する働きや肝臓障害を和らげたり、アレルギー代替穀物としても注目を集めています。冷害にも強く、大地の恵みを受けて小さな粒が作り出す食物栄養素の力が病気を遠ざけてくれます。
豊食の時代に合あって、古代人が健康を維持してきた雑穀たちが生活習慣病に悩む現代人の救世主として、また新しいグルメ食材として注目されることに喜びを感じます。雑穀は「命の根源」なのですね。

生涯学習の源流、鷹巣「内館文庫」

秋田には大館や角館という「館」のつく地名がありますが鷹巣地方にも「館」のつく地名が数多くあります。「館」はアイヌ語では「柵囲い、砦」の意だそうです。蝦夷時代には防砦として利用され、鎌倉時代には「館」は武士の邸宅でしたが行政的な機能も加わり、軍事的な役割も果たしています。東館、西館、内館の呼び名もあり、やがてこの「館」を利用した家塾が開かれ庶民の教育や学校、図書館としても広がっていきました。
鷹巣地方では「内館塾」を始め15校の家塾が秋田藩や全国の水準を上回る教育施設として栄え、明治、大正期には人材輩出の基礎となっています。その一人に江戸時代の比内文化を代表する碩学(せきがく)の人で朱子学を確立した学者、宮野尹賢を生んでいます。
字源では「館」は、食と人が集まっている家の意です。優秀な人材が集まり図書の貯蔵をつかさどる意もあり、「内館文庫」は豊穣の地、鷹巣の知恵の殿堂なのです。

幻の雑穀「キヌア」

13〜16世紀まで続いた南米インカ帝国では、キヌアは「母なる穀物」として重要な食料でしたが、スペインの侵略によってインカ帝国が滅ぼされた時に、麦の敵性植物として栽培を禁止されました。以来、キヌアは“幻の雑穀”といわれていました。
ところが、宇宙食の研究開発を進めるアメリカ航空宇宙局(NASA)が、人間の体に必要なすべての栄養をバランス良く含む完璧な「21世紀の主食」として推奨してから、欧米では自然食、健康食として人気の雑穀になりました。
キヌアは、ほうれん草やとんぶりと同じアカザ科の植物で南米アンデス山地では紀元前三千年にはすでに栽培され、インカの人々は「キヌアを食べると丈夫で頭の良い子に育ち、病気やケガの回復も早く、長生きする穀物」と信じていたそうです。良質のたんぱく質、鉄分やカルシウムなどミネラル分も多く、食物繊維やビタミン、必須アミノ酸も含む驚異的な雑穀です。
世界にはさまざまな雑穀が存在しているのですね。

アンデスから来た“神の穀物”アマランサス

くまさん自然農園でも栄養豊富なアマランサスを栽培していますが、アマランサスは雑穀の仲間でもイネ科ではなくヒユ科ヒユ属で、観賞、野菜、穀実用として世界中に60種程あるそうです。
紀元前3000年〜5000年の昔、アンデス山岳地帯でアステカ族が栽培し、13世紀に興ったインカ帝国では“太陽の神への捧げ物”として重要な作物でしたが、16世紀のスペイン侵略によりアマランサスは“邪神の穀物”とされ栽培を禁止されてしまいます。19世紀に入ると“神の穀物”としてインドやネパールに伝わり、日本には江戸時代に東北地方に伝わったと言われています。ヒゲイトウ、アカアワ、仙人穀とも呼ばれ栄養価が高く、白米と比べてカルシウムは28倍、鉄分は50倍、食物繊維は8倍で全米科学アカデミーは食糧危機対策作物として紹介しています。欧米ではヘルシーシリアルとして人気で、穀物ブームの日本でも人気です。
遠いアンデス山脈から北上山地へ根付いたアマランサスにロマンを感じます。

ふるさとのDNA「森吉山」と「米代川」

くまさん自然農園のある鷹巣地方は、豊かな恵みをもたらす米代川と遥かな森吉山(1,454m)がふるさとの誇りです。鷹巣小学校の校歌には「米代川にかげうつし 清くそびえる森吉山を 心の鏡とあおぎつつ 正しくのびていくわれら」と歌われ、鷹巣中学校では「遙かにのぞむ 森吉山よ 米代川に 影さして 清き姿 仰ぎつつ 風さえゆかし わが学びやよ」とあり、鷹巣農林高校では「流れて広き 米代川よ 聳えて高き 森吉山よ 偉大の自然に 朝夕鑑み 若き我等ぞ 学びに励む」と歌われているのです。
この地で生まれ育った子どもたちにとって米代川と森吉山はふるさとのDNAとして体にとけ込む風景です。縄文遺跡も多く森吉町の「白坂遺跡」からは有名な「遮光器土偶」や「人面付環状注口土器」なども出土しています。阿仁町からは鮭が刻まれた「魚型文刻石」(別名・鮭石)も出土しており、縄文人の豊かな暮らしがわかります。
そんな豊穣の地の山、川に感謝する事から一日が始まります。
(参考文献:「あきた北空港」(前川清治著・秋北新聞社刊)

美人をつくる雑穀

漢字で「米」と書くと語源的には穀物の粒のことで、アワ、キビ、ヒエもすべて「米」と呼んだそうです(角川新字源)。雑穀類には抗酸化物質が多く含まれ、細胞の酸化を防ぎ肝臓や腎臓をはじめ体内臓器官の若さが維持され若返りの働きがあることがわかっています。
さて、「化粧」という文字には「米」が使われていますが、「庄」は形づくるという意味で米がついて「粧」、“装う”となりますが、「米」(雑穀)を食べて体の内から健康で美しくなることから「化粧」という意味もあるそうです。
世界の三大美女、クレオパトラ、楊貴妃、そして平安時代の女流歌人・小野小町も大いに雑穀の恩恵に浴したに違いありません。「古今和歌集」に18首も歌が選ばれた才能の持ち主の小町は、かなりの食通だったそうですし、楊貴妃の不老不死の妙薬は雑穀だったかもしれません。アマランサスは「神の穀物」と呼ばれ、キヌアは「母なる穀物」と呼ばれるように、雑穀は世界が認める栄養バランスのとれた“美人食”ですね。

地名になった雑穀たち

「雑穀」という言葉がいつ頃から使われたかは定かではありませんが、雑穀ブームもあり“ヒエ・アワ・キビ”が雑穀としてすぐ浮かびます。
昔は、時代によってマメ類やムギ類、ソバやゴマまでが雑穀に含まれることもありました。
「雑穀」とは、主にイネ科の穀物の中でも小さな実を付ける作物の総称として使われていますが、英語でもミレット(millet)と呼ばれ、milleが数字の千を意味するとおり数千粒の実をつけることから、そう呼ばれたのです。
そんな雑穀たちの名前が地名になったと民俗学者柳田国男さんが説かれています。
「アワ」が多く生産されたので阿波の国(徳島県地方)、「ヒエ」が多く生産された閉伊の国(岩手県から青森県地方)、「キビ」が多かった吉備の国(岡山県・広島県地方)と呼ばれたのだという説です。
雑穀がその地を表す地名になるほど主要な食糧として大切にされていたことが分かるような気がします。

雑穀から生まれた「粒粒辛苦」

祖父母や両親から「お米はお百姓さんが苦労して作るのだから、一粒たりとも粗末にしてはダメ」と言われた事は誰にもあることです。
中唐の詩人、李紳(りしん・780年〜846年)の漢詩「憫農(農をあわれむ詩)」に、有名な「粒粒辛苦(りゅうりゅうしんく)」という一節があります。
今、私たちが食事のときに「めしにしよう」と言いますが、めしは蕎麦やラーメン、ハンバーガーでもいいように、漢字で「米」と書くと語源的には穀物の粒のことで、あわ、きび、ひえも米と呼んでおり、その一粒一粒が作った人の苦心の結実であることから、物事をやり遂げる・苦労し抜くこととして知られています。
万葉集に「住吉(すみのえ)の岸を田に懇り(はり) 蒔きし稲 かくて刈るまで会はぬ君かも」とあるように、苦労して開墾して蒔いた稲を刈り取るまでは恋しい君にあえないことがとても辛いです、という意味ですが、苦労の連続の末に実る雑穀たちに愛しさを感じます。

比内鶏の秘密

鷹巣から少し内陸の大館市や比内町は、古くから肉の美味しい比内鶏で有名です。

この「比内」という地名は、金田一京助先生によるとアイヌ語で「崖下を流れる小川のほとり」という意味で、豊かな自然の風景を思わせます。比内鶏は昭和17年、国の天然記念物に指定され、「声良鶏 (こえよしどり)」(国の天然記念物)、「金八鶏(きんぱどり)」(秋田県の天然記念物)とあわせ「秋田三鶏」と称される自慢の鶏たちです。天然純血種の比内鶏の食用は禁じられていますので、アメリカのロードアイルランドレッド雌と掛け合わせた一代雑種が「比内地鶏」という名前で生産・流通されているわけです。

秋田郷土料理「きりたんぽ」は、比内地鶏抜きでは語れません。比内地方の土質が、キジや山鳥に似た肉質と脂のきめ細かい比内地鶏を生む秘密だそうです。噛みしめるほど美味しい風味と香気がでる比内地鶏は、自然界からの贈り物なのかもしれませんね。