人間が植物を栽培する農耕生活に入ったのは今からおよそ1万年前の新石器時代といわれています。しかし、農耕を始める以前の狩猟と採集に依存した時代から雑穀は食されていた痕跡が出土しています。古代人にとって雑穀は生命の主食でした。
1980年代、米国やカナダの医師たちが予防医学などの観点から注目した食品がスーパーフードという食材があり、2000年代に米国のセレブたちが美容や健康のために取り入れはじめ、日本でも広がりを見せています。アサイーやココナツ、スピルナ、チアシードなどにキヌアも加わり、NASAの宇宙食にも入る食材としてその栄養価とともに植物栄養素の効果が注目されています。キヌアを始めアマランサス、ひえ、あわ、きび、はと麦、マノーミン、黒米、赤米、むぎなど雑穀たちは人類の長い歴史のなかで、現代まで絶えることなく続くスーパーフードとして先祖帰りの食材が注目されています。
山の民マタギと北秋田
「くまさん自然農園」のある北秋田市の森吉山麓にマタギの里と呼ばれる阿仁町があります。マタギとは伝統的な猟法を守って狩猟をする山の民ですが、山への敬愛と熊を山の神からのたまものとする考え、山の神への感謝、魂を山に送り返そうとする行為や精神にささえられ、その生き方はマンガ家、白戸三平さんのライフワーク「カムイ伝」にも描かれています。
マタギは熊以外の鳥獣や薬草にも知識が深く、自然と共生して暮らしていました。マタギの語源説はいくつもありますが、アイヌ語で狩猟者をマタンギトノというのでこれが転じたという説やインド語でも狩猟者をマータンギといい、マタギが唱える不思議な呪文もサンスクリット語(古代インド語)だそうです。
遠い昔、古代インドの民とアイヌはつながっていたのでしょうか。その子孫たちがマタギとしてこの「くまさん自然農園」の地で活躍していたと思うとロマンを感じます。
「雑穀」から健康「主穀」へ
いま雑穀が世界的に注目を集めています。その理由は優れた植物栄養素の力で栄養学がその効能を実証しているからです。例えば、「キアヌ」は、鉄分が豊富で貧血の予防に良い。「アマランサス」は、カルシウムやビタミンB群などが豊富で骨粗しょう症対策に最適。「キビ」は、抗酸化力が高く体の老化防止。「ヒエ」は含有タンパク質が善玉コレステロール値をアップし、細胞を元気にして脂質代謝を改善。「黒米」は、ポリフェノールの一種、アントシアニンが豊富で抗酸化力が高く目の疲れを改善。「大麦」や「モロコシ」は、食物繊維が便秘を解消しコレステロール値を下げ、腸を整える。「ハトムギ」は、含有コイクセノライドが美肌効果を促進。「ソバ」は、ルチンが高血圧予防に効果あり。
と雑穀たちの豊富な植物栄養素の効能が注目されているのです。「21世紀は植物栄養素の時代」と言われていますが、雑穀こそ主穀として食生活の中心にしたい機能性食材ですね。現代の栄養学がそれを実証しています。
三度、楽しむ「コキア・ほうき草・とんぶり」
秋、真っ赤に色づく“コキア”が近年、人気の紅葉狩りとなっています。日本では“ほうき草”と呼ばれ、その実は“とんぶり”と呼ばれ畑のキャビアと称せられ、プチプチ感がキャビアそっくりです。“コキア”の原産地は中央アジアや西アジアで中国を経て古く日本に伝わり、秋田の名産ですが北秋田地方ではトンボのことを“ダンブリ”といい、トンボの目とほうき草の実が似ていることから、それがなまって“とんぶり”になったという語源説や中国の魚卵のブリコ、花茎のとうのブリコからと定説はないようです。
コキアは、秋に色づいて小さな葉が落ちたら昔は“箒” として使われ、その実はいまでも“とんぶり”として食されています。
栄養価は強壮、利尿に効果があるとされています。皮をむく作業は大変ですが旧比内町では精進料理や冠婚葬祭に欠かせない食材です。
雑穀の健康食としての広がりやスローフードの人気、今は紅葉の観光名勝となっています。
聖なる種「マノーミン」に注目
「マノーミン」という雑穀をご存知でしょうか。英語名では「ワイルドライス」、日本では「まこも」と呼ばれ、イネ科マコモ属の植物の実で稲の原種といわれています。
古くから北米に自生し、インディアンが常食してきたザイザニア、アクアティカとも呼ばれる水草の実で“聖なる種”といわれ偉大なる精霊からの魂「マノ」と種という意味の「ミン」から「マノー ミン」と呼ばれ、黒米を倍くらいに長くした細長い形をした実でナッツのような香ばしさとモッチリした食感が特徴の雑穀です。
サラダやスープなど野菜感覚で利用され、栄養価も高い機能性食材として注目されています。良質のタンパク質、ビタミン、ミネラルが豊富で脂肪分が少なく、食物繊維にも富み消化のよいのも特徴です。
古代人が食していた“パレオフード”の高機能性が解明され、健康社会づくりに役立つ食材として活用されることに期待です。
オオムギの起源でわかったこと
日本で古くから栽培されているオオムギの起源は、1万年前に突然変異した種が中東から伝わった栽培種であることがDNA配列からわかったそうです。
岡山大学や農業生物資源研究所などの国際研究チームが 米国の科学誌に発表しました。
中東の遺跡の調査から2万3千年以上前に、この地方で野生種の実が食べられていることがわかっています。オオムギの野生種は実が成熟すると地面に落ちやすいのですが、成熟しても実がついたままの突然変異種を見つけて栽培を始めたのだそうです。そのため、1万年前のオオムギの栽培が農業の起源と考えられています。
日本には7千~8千年かけてラクダの背に揺られながらシルクロードを経由して伝わったといわれています。雑穀のルーツを探りながら、人々の農耕の起源や暮らしの文化が見えてくることに悠久のロマンを感じます。
健康を応援する雑穀たち
食品の機能性表示とともに「農作物」に対する期待も高まっています。
生活習慣病や認知症の予防に役立つ農作物の研究、開発に農林水産省が本腰を入れ始めているからです。
米やじゃがいも、みかんや緑茶などが研究の対象として選ばれ、それらの農作物に含まれる植物栄養素、βカロテンやβクリプトキサンチン、βグルカン、アントシアニンやカテキンなどのポリフェノール類、ビタミンB2、アミローズなど高機能栄養素の研究が進められています。でも最も注目されている農作物は雑穀の栄養素です。
キアヌやアマランサス、あわ、ひえ、きび、赤米、黒米、そばや押し麦などの多くに含まれるポリフェノールやカリウム、必須アミノ酸バランスなどの成分が高機能栄養素として世界的に注目されているのです。雑穀は健康自立に欠かせない食材となっています。
雑穀・宇宙へ行く!
宇宙食に「五穀玄米ごはん」が加わりそうです。宇宙航空研究開発機構では、宇宙日本食に新たな108品目の候補から、33品目を選んだなかに「五穀玄米ごはん」が入っているそうです。その他にさつまいもや焼きいも、おろしりんごやちりめん山椒、ようかんなども含まれています。宇宙食は国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する日本人宇宙飛行士に、栄養バランスの向上やストレス軽減などを目的に提供する食事です。
これまでに赤飯やラーメン、粉末緑茶など28品目が認証されていますが、保存期間や食感、食べやすさ、水分やカスが飛び散らないかなどの試験がされ認証されるのです。
クッキングをしなくてもいい宇宙食ですが、飛行士の健康維持に「五穀玄米ごはん」が加わり、噛めば噛むほど味が出る五穀玄米が活躍と思うと楽しいですね。
他の国の宇宙飛行士にも“おすそわけ”するのでしょうか。
「五穀米」から生まれる世界一の演奏
「ベルリン・フィル」と聞けば誰もが世界一のオーケストラだとわかりますが、この管弦楽団を率いる第一コンサートマスターが日本人の樫本大進さんです。さまざまの楽器を演奏する楽団員と指揮者の間にいて、一体となって音楽を構成する役割もあり互いに信頼し、尊敬しあう関係づくりに気を使う難しい仕事です。演奏会は夜が多く健康には充分注意をはらっているそうで、食事は奥様の和食中心の手料理で健康管理をされています。
樫本さんはカツ丼が好物だそうですが、奥様は健康のために「五穀米」でカツ丼を作られます。世界一のバイオリンの音色とベルリン・フィルの演奏は「五穀米カツ丼」で奏でられると思うと、なぜかワクワクします。
樫本さんは、1979年ロンドンで生まれ、3歳でバイオリンを始め、96年にロン・テイボー国際音楽コンクールで優勝し、2010年ベルリン・フィル第一コンサートマスターに就任された“世界の匠”ですね。
見直される雑穀の底力
機能性表示食品が注目され、食事が健康の素と再認識される時代「雑穀」に含まれる豊富な植物栄養素の機能と効用が見直されています。雑穀に含まれる「ポリフェノール」は、植物を紫外線から身を守る働きをするように人間にも同じ役割を担ってくれるのです。ポリフェノールには5,000種類以上あるのですが、雑穀の色素や苦み、渋みなどに多く含まれ強い抗酸化力とともに紫外線に負けない身体を作ってくれます。また、体内で合成できない「必須アミノ酸」を雑穀から摂取できることです。リジンやパリン、ロイシン等の9種類の必須アミノ酸が免疫力を高めてくれます。
そしてもう一つは、カリウムやナトリウム、鉄分や亜鉛などの豊富な「ミネラル成分」が体調を整えてくれる働きがあることです。
「雑穀」を代表するこれらの3つの成分が一緒に摂れることが注目されています。雑穀の底力はまだまだ未知数で、その可能性は広がりそうです。