400年前の遺言

北秋田市にある鷹巣町と比内町にまたがる森吉山の山麓にある、鍋を伏せた形の竜ケ森(1049m)がありますが、名前のように竜を神にまつる山で雨乞いの風習があり、そのため「竜ケ森」と呼ばれています。
今は、竜ケ森野外リクレーション場が開設され、上母木には天然秋田杉の風景林が「学術参考林」として設定され親しまれています。この豊かな国有林は、400年以上も前から守り続けられており秋田藩主の佐竹氏の命によりこの地に調査に入った団長の渋江内膳政光によって「秋田の豊かな林野と農業に藩政の基礎政策を置くべきである」と指摘し、渋江政光の「遺言」として残っています。
「国の宝は山なり。山の衰えは即ち国の衰えなり。百姓は国の宝なり。百姓衰ふときは国もまた衰ふなり」この渋谷の遺言を「竜ケ森」の名とともに400年も継承していると思うと「くまさん自然農園」も身が絞まります。

つぶつぶ雑穀酒

お酒はお米や麦、果物から造るイメージが強いのですが、古くは雑穀からも造られていますがご存知ですか。
日本ではアイヌ民族がピヤパと呼ぶ「ひえ」から“トノト”という儀式に欠かせない酒を造っています。ネパールでは「シコクビエ」を発酵させた“チャン”というつぶつぶ酒が飲まれていますし、中国では「高きび」を原料に“白乾・パイカル”が造られ「コーリャン」と呼ぶモロコシから“コーリャン酒”が造られています。日本でも20年程前から福島県で「高きび」から焼酎が造られ、毎年秋には“高きび祭り”が開催されています。
岩手県北上山地では「ひえ」で“どぶろく”を造り、疲労回復のために飲んでいます。
福島県では蕎麦を原料にした“蕎麦酒”、福岡県では「ごま」から“ごま焼酎”が造られていますが、全国にはまだまだ雑穀を原料にした地方色豊かな“つぶつぶ酒”があるのではないでしょうか。

“自然の日傘”と赤米・黒米

赤米や黒米が使われた色艶やかな五穀米、八穀米が人気ですが、秋田では「朝柴」と呼ばれる赤米が収穫されます。
こうした色素米は2000年以上前に中国から伝わり、生命力が強く薬効成分もあることから神様へのお供え物やお祝いごとに古くから使われていました。この赤米の色素は、赤ワインと同じポリフェノールの一種タンニンで、抗酸化作用の高い栄養素です。黒米の色素も同じポリフェノールですがブルーベリーと同じアントシアニン系で、滋養強壮に優れ薬膳料理にも使われます。
植物栄養で注目されるポリフェノールには「自然の日傘」とも呼ばれ、植物たちが紫外線から身を守るファイトケミカルで日傘のような役割をしているのです。トマトのリコピン、緑茶のカテキン、黒豆のアントシアニンも同じポリフェノールの仲間ですが雑穀の赤米や黒米にも多く含まれるポリフェノールが元気な体を作ってくれるのです。

卑弥呼とジョン・レノン

邪馬台国の女王・卑弥呼の時代、弥生人はある調査によると一回の食事で3900回以上噛んでいたそうです。
一方、ベジタリアンで世界に平和のメッセージを発信し続けたジョン・レノンは、一回の食事で1000回噛むことを心がけていたそうです。噛むことによって唾液を分泌し、唾液に含まれるでんぷん消化酵素が穀物や野菜をブドウ糖に変え口の中でおいしさを広げ、脳への刺激と同時に脳の働きに欠かせないブドウ糖を供給し、脳細胞を活性化します。
よく噛むことによって、唾液の分泌、あごの運動による脳への刺激と必要な栄養補給を迅速にし、脳の活性化によって体の働きを高める効果をもたらします。
特に“つぶつぶ雑穀”を食事に取り入れることによって噛む回数が増え、体内の臓器を始め脳の活性化を促し、健康長寿の礎となること間違いありません。
雑穀は、“健効の素”ですね。

秋田の食材で給食日本一に!

鷹巣の隣町、世界自然遺産で知られた白神山地の麓にある自然豊かな藤里町が、12月に開かれた全国47都道府県から2157の学校施設が応募した「全国学校給食甲子園」で、藤里町学校給食センターが優勝しました。
地元の食材を使って栄養価などを競う大会で、献立は「白神あきたこまち」で作ったきりたんぽに、地元産の味噌を付けて焼いた「みそつけたんぽ」や白神舞茸の「うどん汁」、「とんぶりあえ」、「枝豆のかわりがんも」や「やまぶどうゼリー」などで、嬉しい全国一に輝きました。
藤里町内の幼稚園や小中学校の280人分の給食を作るセンターの栄養教諭や調理員の皆さんが、地元産の食材にこだわり安心・安全を第一季節感や食文化学習にも目配りした献立での優勝です。
自然豊かな秋田ならではの優勝に、くまさん自然農園も嬉しく、給食にもっともっと雑穀を取り入れてほしいなあと思っています。

「麦」の時代

グラノーラ人気でオーツ麦が注目されていますが、日本でも伝統の知恵が生んだ「押し麦」やイネ科の「はと麦」が根強い人気の雑穀です。押し麦は、大麦を精麦して2つに割ったり、蒸してやわらかくしてからローラーで平たく潰して調理しやすく工夫し、食物繊維と米に足りない必須アミノ酸が豊富でヨーロッパでは主食として食べられてきたように洋風料理には欠かせない食材なのです。
はと麦は、ジュスダマ属の一種で薬効があり古くから薬膳料理の食材として使われました。むくみの緩和や利尿作用、美肌効果に優れ肌あれやしみなどの肌のトラブルを和らげる作用があり、女性に人気の雑穀です。
国内の収穫量も609トンと多く、秋田県や栃木県、広島県で作られています。「健康」が「健効」と呼ばれ、一つひとつの食材の効果が注目される時代、伝統の雑穀たちに注目されるようになり、嬉しくなっています。

モテキ雑穀「キヌア」

国連が2013年を国際キヌア年と定め、雑穀キヌアはモテモテです。栄養価が高く、様々な気候に適応するため食料危機の解決に役立つというのがその理由です。大阪市立大学院食品機能化学の小西洋太郎教授によると、「キヌアは、精白米に比べ、たんぱく質や脂質が多い上、マグネシウムは10倍、亜鉛は3倍などの微量元素が豊富だ」と語っておられます。
ミネラルが不足がちな現代人にとって、キヌアは理想の穀物で健康や美容に感心の高い高齢者から若い女性層まで人気の雑穀で、ローソンなどのコンビニでもキヌアを加えたスープやサラダが売られています。レシピ紹介サイト「クックパッド」でも、キヌアレシピも増え、検索頻度も上昇中だそうです。
モテキ雑穀・キヌアの存在がクローズアップされ、雑穀がますます健康食に欠かせない事がわかってきましたね。

あわとねこじゃらしの関係

あわの原産地は中央〜東部アジアとされ、すでに石器時代には栽培されており、シベリア、オーストリアを経てヨーロッパへ渡ったようで、古い遺跡からはあわが出土しています。
日本には朝鮮を経て渡来。縄文時代にはすでに栽培され、きび、ひえと並んで我が国最古の作物。稲の伝来以前の主食であったと見られています。
この、あわの野生種はエノコグサ。通称ねこじゃらしですから、意外と身近な雑穀ですね。
古事記では、五穀として稲、あわ、小豆、麦、大豆が記され、日本書紀には四神出生の段で稲を除いた4つの総称を“陸田種子(はたつもの)”とし、雑穀の定義をしています。
江戸時代には本朝食鑑に、「うるちあわは大衆の常食で、もちあわは上流階級の食べ物」と記されています。明治の始めまで米よりもあわの栽培量の方が多かったそうです。あわの名は味が淡い事が由来とされています。
道ばたで頭を垂れるねこじゃらしがあわの野生種と思うと愛しくなります。

雑穀「きび」のふる里はどこだろう?

「きび」は最も古い穀物の一つですが、野生種が発見されておらず、原産地も諸説ありインド西北部から中央アジアや中国、エジプトやギリシャなどでも栽培されていたそうです。
また、紀元前8000年〜4000年の石器時代にはヨーロッパに伝来していたとも言われています。「きび」は古代中国では「黄米」といって最高級の主食だったそうです。日本には華北から朝鮮を経て伝わったとされていますが「古事記」や「日本書紀」にはきびについての記載がなく、「倭名類聚鈔(わみょうるいじゅうしょう)」(931〜936)の「和黍」の文字が最初です。米、麦、アワ、ヒエよりも遅れて伝来したと考えられています。「吉備の国」と呼ばれた現在の岡山県あたりは、その名が称するように古来はきびの産地だったようで、おとぎ話「桃太郎」に出てくるように“鬼の征伐についてくるならあげましょう、きび団子”というほどです。昔は兵糧食としても使われていたようです。くまさん自然農園でも農薬不使用できびを作っていますよ!

雑穀は「命の根源」食です

健康食品として注目を集める雑穀たちですが、昔は畑に実る五穀をどれも「イネ」と呼んでいました。古代語で 「イ」は“いのち”の 「イ」、「ネ」は“根っこ”の「ネ」で、二つの言葉をつなげて「イネ」と呼び「命の根源」を意味していたのです。
くまさん自然農園の伝統的な雑穀たちは農薬を使わなくても育ち、豊富なビタミンB群やミネラル、食物繊維に恵まれ私たちに必要な必須栄養素を満たしてくれます。雑穀たちには動脈硬化を予防、軽減する働きや肝臓障害を和らげたり、アレルギー代替穀物としても注目を集めています。冷害にも強く、大地の恵みを受けて小さな粒が作り出す食物栄養素の力が病気を遠ざけてくれます。
豊食の時代に合あって、古代人が健康を維持してきた雑穀たちが生活習慣病に悩む現代人の救世主として、また新しいグルメ食材として注目されることに喜びを感じます。雑穀は「命の根源」なのですね。