雑穀の「色」と「つぶつぶ」の秘密

“小粒で光る”雑穀は機能性食品の頂点として輝いていますが、その秘密は雑穀の「色」の豊富な抗酸化栄養素と小さな「つぶつぶ」の食物繊維の力です。
雑穀の黒、紫、赤、黄、緑などの色は体の錆をおとす抗酸化物質のポリフェノール類で活性酸素を食い止め免疫力を高め生活習慣病予防・改善に大きな働きをしています。
雑穀の小さなつぶつぶの秘密は、一粒一粒を包む皮が食物繊維で、今では第七の栄養素と呼ばれ、栄養調整や微生物の調整、排泄促進などの働きを担っています。ビタミン、ミネラルの豊富な雑穀類は“天然のサプリメント”と呼ばれる理由がよくわかります。
平安時代には生命力あふれる表現として「源氏物語」では“つぶつぶ”という形容詞として使われ豊満で美しさを表現する言葉でした。小さな子供や赤ちゃんが“つぶつぶと肥えて”などと使われていた言葉が雑穀のつぶつぶの力に通じますね。

小さな粒の長い航路に敬意

雑穀の代表、アワ(粟)、ヒエ(稗)、キビ(黍・稷)の字源は、こまかい、小さい、少ないなど“小さな粒”から付けられた名称のようです。中国でもっとも早くから栽培されたキビは、百穀の長、五穀の神とも呼ばれて粒の黄実の色から“キビ”の語源となったともいわれています。
アワは中央〜東部アジアが原産地といわれシチリア、オーストリアを経てヨーロッパへ石器時代に伝わり、日本へは朝鮮を経てもっとも古く渡来し縄文時代にはすでに栽培されています。ヒエと並びわが国最古の作物で、イネ伝来前の主食でした。
キビは中央〜東アジア湿帯地域と推定され、ヨーロッパへは石器時代に伝来し日本へは華北から朝鮮を経て、イネ、ムギ、アワ、ヒエよりも遅く伝来したと考えられています。
石器、縄文、弥生と古代の小さな主食だった作物が21世紀の健康を支えるスーパーフードに蘇る長い道程にロマンスを感じます。

「雑」は“雑”ではない

一つひとつに名前があってもなぜか“一派一絡げ”にして“雑貨や雑誌、雑衣や雑穀”と呼ばれるのは残念な感じがしてしまいます。古代中国の辞書では、“五采相い合うなり、五色の彩りが一つになる”とあります。僧侶の袈裟(雑衣)が色彩によって位を示すように雑他な表現ではないようです。
奈良時代末期に書かられ最古の和歌集「万葉集」は、20巻4,500首以上が、「雑歌」「相聞」「挽歌」の順に編纂されています。
めでたい正月料理のトップには「雑煮」が主役として堂々と登場してきます。どれも、雑な扱いではない気がしますが、僻みでしょうか。
雑穀も“米”が主役ではなく、ヒエ、アワ、キビが主役であったことを考えれば小粒であったことから雑穀と後付けで呼ばれたのではと思ってしまいます。「雑学」も立派な学問ですから僻まなくてもいいのですがちょっと「雑穀じゃない。スーパーフードです!」と呼びたくなります。

「糅飯(かてめし)」「雑炊(ぞうすい)」

江戸の人口が急増し、100万都市なった頃、幕府が食事を二食に厳守するように令を出しています。とはいっても当時の米の収穫量は少なく一日三食の食事形態が一般化するのは幕末のことですから、米の足りない分をムギやヒエ、アワ、キビなどの雑穀やイモ、ダイコンなどの根菜類をおぎなって食べる工夫をしていました。その代表的な食事が「糅飯(かてめし)と雑炊(ぞうすい)」でした。
「糅飯(かてめし)」は、少量の米にムギや雑穀類を混ぜて炊いた食事で、「雑炊(ぞうすい)」は糅飯を汁で薄めた食事で、これが主食だったのです。
こうした食習慣は昭和20年頃まで続いており、人口の70%以上が「糅飯」でしたから現代の栄養学で1977年に「合衆国の食事の目標」とされた「マクガバン・レポート」の理想の健康食だったのです。21世紀に入って雑穀がスーパーフードとして注目され、「糅飯や雑炊」も再登場し“食の先祖返り”として理に適った食生活ではないでしょうか。

アフターコロナは“雑食主食”の時代に!

アフターコロナの時代が憂慮されますが“自分の健康は自分で守る”ことが求められそうです。国も「新しい生活様式」を提言し、食事の仕方を見直すことを主張しています。
“自粛から自衛”とすれば一人ひとりがどのような自衛をするかを考え実行しなければなりません。特に健康の維持増進では「食」の見直しが大切になります。
現在の長寿社会を検証すると長生きの基は雑穀が主食だった時代の経験者たちです。
21世紀になって栄養学の発展とともに植物栄養学が注目され、特に雑穀の栄養成分の機能が高く評価されています。
豊食が進むなかもう一度雑穀の機能性食品が主食として再登場する必要がありそうです。
少子高齢化、人口減が進むなか医療や介護などの社会保障など社会全体の活力低下も加わり“健康自己責任”が問われる時代、もう一度“雑食主食”の食生活を推進する必要がありますね。

雑穀番外編「畑のキャビア」

黙って出されれば高級食材チョウザメの魚卵キャビアとそっくりな草の実「とんぶり」は秋田県大館市比内町地域がほぼ独占するグルメに愛される“畑のキャビア”です。
別名「ほうき草の実」でアサガオ科ホウキギの1年草ですが、名前のように昔は茎を乾燥させて箒として使われていました。この地方では冠婚葬祭に欠かせない行事用食材だったそうですが、70年代中頃から転作作物として農家に奨励され栽培が広がりました。
秋田地方の雑穀ブームもあり、珍しい食材として「とんぶり」も全国市場を独占する“知る人ぞ知る”畑のキャビアなのです。もう一つのブームは「コキア」と呼ばれ、ひたち海浜公園では真っ赤なほうき草が観光名所となっています。2000年前に書かれた中国の漢方辞典では利尿薬、強壮薬ともされ現代の植物栄養素にもサポニンを多く含み糖尿病への効用が記されています。雑穀、雑草の実の多様性が発見される時代ですね。

発見された雑穀の美点

「雑草とは何か?それは、その美点がまだ発見されていない植物である」―と言ったのはアメリカの思想家であり作家で詩人、哲学者のラルフ・ウォルドー・エマーソンです。
では、彼の言葉を借りるなら、“雑穀はその美点が発見されても雑穀と呼ばれる奥ゆかしい植物である”と言えそうです。
雑穀とは、主にイネ科の穀類の中でも小さな実をつける作物の総称で、英語ではmilletでmilleが数字の千を意味するとおり雑穀は一粒の種子から数千粒の穀実を付けることから呼ばれています。人類が農耕を始めたのは紀元前一万年前頃といわれていますが、そのなかで雑穀はイネやコムギ、イモ類などとともに主食として古代文明を支えてきたのです。その長い歴史の中でも“雑穀”ですが、21世紀に入って植物栄養素の高機能性が発見されたことで、エマーソンの前言も終わりを告げそうですが雑穀には愛着がありますね。

雑穀は第6の栄養素の王様!

国立がん研究センターの研究チームが「食物繊維を多くとっている人は、そうでない人と比べて死亡リスクが約2割下がる」と発表しました。 “食物繊維”が、第6の栄養素として高い評価を得ています。今まで健康を左右する5大栄養素として炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルが研究されてきましたが、食物繊維も栄養素としてその機能が注目されています。
食物繊維は野菜や果物、キノコ類が多いと思われていますが、雑穀たちの食物繊維の豊富さも評価されています。雑穀の小さな粒に含まれる5つの栄養素に加え食物繊維の含有量も多く、第7の植物栄養素としても評価されています。食物繊維は消化吸収されずに小腸を通って大腸まで達する食品成分で、整腸効果だけではなく血糖値上昇の抑制や血液中のコレステロール濃度の低下など多くの生理機能が明らかになっています。雑穀がスーパーフードと言われる理由がわかります。

雑穀は“小さな命の宇宙”

あわやきびの粒はきわめて小さく、一粒は大体1mmから2mmですが、この小さな粒の中に強い生命力があり遺伝子があり、土に蒔くと発芽します。小さな雑穀の一粒一粒には発芽に必要な栄養成分や遺伝子を守る抗酸化成分が含まれています。また、あわやきびの黄色い色素にはポリフェノールやビタミン・ミネラルなどの栄養素が含まれています。
雑穀食は、一粒一粒につまった植物栄養素とエネルギーを丸々いただくことであり、“小さな命の宇宙”を吸収できるのです。
私たちの食生活が“雑穀混炊型”の時代は生活習慣病などのない健康な時代でしたが、白米が主食になって栄養バランスを崩すとビタミンB1の欠乏のため心臓や神経系に障害を起こし足がしびれたりむくんだりする“脚気”が流行した時代がありました。
雑穀は豊食の時代を迎へ注目すべきスーパーフードとして再登場し、健康な暮らしに欠かせない小さな命の救世主です。

変化に対応する雑穀づくり

“百姓”の名称は、種や土、肥料や気候、温度や湿度、栄養学や収穫量、栽培方法などさまざまな百の知恵や知識、学問が必要なことから名付けられたのがルーツです。
でも今の農業は、高齢化や後継者、人手不足に悩み代々つないできた農業技術をITを活用したデータ分析や省力化、自動化の技術で支援しなければ難しい時代になっています。
雑穀農家のイメージは弥生時代から変化のない生産方法だと思われがちですが、同様の近代化やスマート農業を求められていることには変わりがありません。
“雑穀”には、自然環境の変化に対応する強い力があり雑穀自身が生き残る進化をしているのです。私たちもそうした雑穀の進化した生存力や栄養価の高い種を選別し残し、つなぐ努力をおこたりません。地球温暖化の進むなかで“変化に対応”して生きる究極の雑穀魂にご期待ください。
雑穀は21世紀のスーパーフードです!